今流行りの信用スコアについて、世界観とその作り方について、
解説します。
なぜ、信用スコアに興味を持ったかというと、
去年10月にSAS Japanさんから、"SAS Analytics Experience @ Milano"というカンファレンスに招待して頂き、Credit Scoring(信用スコア)についての講演を聞かせて頂いたことがきっかけです。
その公演では、大きく下記の3つのトピックについて、話してくれました。
- 信用スコアとはそもそも何なのか?
- 現在、主流で、最先端のアルゴリズムは?
- 信用スコアは「ローン貸付の与信の判断」”以外”だと、どんな場面で活用できそうか?
本記事では、アルゴリズムの解説を主にしたいと思います。が、、
ただ、confidentialityの関係で、すべて公開するのは難しいようなので、
簡易版というか、Dr. Terisaに勧めてもらった本に書いてある手法
(Credit Risk Scorecards: Developing and Implementing Intelligent Credit Scoring CREDIT RISK SCORECARDS [ Naeem Siddiqi ])
を代わりに、解説したいと思います。
その本に書いてある手法は、
Dr. Terisaさんが、公演で解説してくれたもの(最先端の手法)と大きくは違わないし、欧米の多くの会社/スタートアップも、この本に書いてある手法を参考にしてるみたいなので、信用に値する手法だと言えるでしょう。
では、下記に、その作成方法を共有します!
使用するデータセット
Kaggleに落ちていた、Give Me Some Creditというデータセットを使用します。2011年のコンペで使用されていたものだそうです。
www.kaggle.com
特徴量の解説は、下記の図でまとまってるので、ご覧ください。
信用スコアを、AIの学習によって作り出す、ってことなので、
当然必要なデータセットは、返済できたかどうか?/返済を遅延かどうか?
の情報が含まれているデータセットが必要です。
信用スコアとは?
まず、信用スコアとは何か?について、確認しましょう。
信用スコアとは、ある人がお金を借りたい!って思った時に、
その人が信用できるか?(返済の能力があるか?)を数値化したものです。
まぁ社会的信用ってことですね。
上記の図にある、ScoreCard Pointっていうのが、貴方の信用スコアを形成する数字になってます。
このScoreCard Pointを作成するために、Pythonで色々カキカキしていくことになります。
一見、難しそうなんだけど、論文読んでみると、やり方は非常にシンプルでした。実は、下記の3ステップだけで、信用スコア作成できます。
- 信用スコア作成に使用するコラムの階層化(ビニング)
- 各コラムの各階層における、WoEの計算
- 各コラムの各階層における、ScoreCard Pointの計算
では、各ステップの中身を詳しく観ていきましょう。
ステップ1 & 2の解説と実装
ステップ1と2は、信用スコアを作る上での、前処理みたいな位置づけです。
まず、Step1から観ていきましょうか。
ここの作業は、結構大変(泥臭い)です。
信用スコア作成に使用する、特徴量(例えば、月収)を、
階層化しないといけないので。
10-20万、20-30万みたいに。
なぜ階層化しなければいけないのか?と言うと、
上記の「信用スコアのイメージ」で解説したように、
信用スコアって、月収が10-20万の人は50点!、20-30万の人は55点!みたいに計算されますよね。
それって、データを準備する側は、「特徴量を階層化する」っていう前処理をしてるってことなんです。
「じゃあ、どう階層化すればいいの?」っていう疑問が出てくると思います。
Step2で後述しますが、
アカデミックな世界だと、階層化の基準は「DOGとDOBの差が最大化するように設定する」って言われてます(Credit Risk Scorecards: Developing and Implementing Intelligent Credit Scoring CREDIT RISK SCORECARDS [ Naeem Siddiqi ])
けど、実務の世界だと、完全に「Try and Error」でやるしかないそうです。
Dr. Terisaさんがそう言ってました。
「Try and Error」で判断すると言うのは、
一旦、階層を自分で指定してみて、信用スコアを出し、ドメインと常識に照らし合わせて、その信用スコアがMake Senseかどうか?を判断しろって言うことです。
「まじか、、めんどくさい」と思ったけど、実務で信用スコア作ってる方が、そう仰ってるので、我々学習者もサボらずに、頑張りましょう。
次は、Step2です。
Step2を理解するためには、
- WoEとは何か?
- DOG/DOBとは何か?
を理解する必要があります。
それぞれ、解説します。
1. WoE(Weight of Evidence)とは何か?
実際、いろんな定義があります。あえて、スタンスをとって定義すると、
「Good CustomerとBad Customer、どっちを予測するのに役立つの?」を
知らせてくれる指標、と定義できます。
この定義で出てくる、
Good Customerとは、「過去に、借入の返済の遅延、債務不履行になったことが”ない”人」を指し、
Bad Customerとは、「過去に、借入の返済を遅延した人、債務不履行になったことが”ある”人」を指します。
プラスの値は、Good Customerの予測に役立ち、
マイナスの値は、Bad Customerの予測に役立ちます。
下記に、実際に計算したWoEのイメージをご覧いただくと、より理解できます。
DebtRatio(負債比率)は、あなたが持っている資産に対して、どのくらい負債・借金があるのか?を示す指標です。(DP = 負債/資産)
上記の図をご覧いただくと、
DeptRatioが高くなればなるほど、WoEの値が小さくなってますよね。
つまり、「資産に対して、負債が大きなっている人ほど、債務不履行になっている」というメッセージが読み取れます。
まぁ、直感的ですよね。
2. DOG/DOBとは何か?
上記のStep1&2の説明のスライドをもう一回見て見ましょう。
Step2のDOGとDOBの計算式に注目してください。
ここの式にある、「各カテゴリーの与信数/非与信数」というのは、例えば、
「月収20-30万円のカテゴリーで何人がGood/Bad Customerなのか?」
を示します。
「トータルの与信数/非与信数」は、
「データセット全体で、何人がGood/Bad Customerなのか?」を示します。
今回使用しているデータセットのコラムでいうと、
"SeriousDlqin2yrs" = 0/1であるときの数です。
言葉だけでイメージするの難しいと思うので、下記の図もご覧ください。
どうです? 理解できました?
もし、わかりずらい箇所があったら、遠慮なく質問してくださいね:)
最後に、Step1-2までの実装方法(python)を下記に共有します。
# binningを定義する def binning(col, list_bins_func): binned_df_list = [] for each in list_bins_func: binned_df_list.append(df[(df[col]>=each[0])&(df[col]<each[1])]) return binned_df_list # BinningとWoEの計算を実行する関数を定義する def calc_woe_runner(col, list_bins): #実際にbinningを実行する list_binned_df = binning(col, list_bins) each_num = np.zeros(len(list_binned_df)) dist_good = np.zeros(len(list_binned_df)) dist_bad = np.zeros(len(list_binned_df)) good_number = np.zeros(len(list_binned_df)) bad_number = np.zeros(len(list_binned_df)) # DOGとDOBを計算する for i, each in enumerate(list_binned_df): each_num[i] = len(each) good_number[i] = len(each[each["SeriousDlqin2yrs"] == 0]) bad_number[i] = len(each[each["SeriousDlqin2yrs"] == 1]) dist_good = good_number/good_number.sum() dist_bad = bad_number/bad_number.sum() dist_total = (good_number + bad_number)/len(df) # WOE(Weight of Evidence)を計算する woe = np.log(dist_good/dist_bad)*100 return col,woe,dist_total, good_number.sum(), good_number, bad_number.sum(),bad_number, dist_good, dist_bad # 上記を実行する # binning関数で使われる変数の定義 col_list = ["age", "DebtRatio", 'MonthlyIncome'] age_bin_list = [[0,30], [30,40], [40,50], [50,60], [60,70], [70,80], [80,90], [90,130]] deptRatio_bin_list = [[0,0.2], [0.2,0.4], [0.4,0.6], [0.6,0.8], [0.8,1.0], [1.0,1.2], [1.2,1.4], [1.4,1.6]] monthlyIncome_bin_list = [[0,2000], [2000,4000], [4000,6000], [6000,8000], [8000,10000], [10000,12000], [12000,14000], [14000,160000]] list_combined = [age_bin_list, deptRatio_bin_list, monthlyIncome_bin_list] # Actually calculate woe col_list_for_df = [] woe_list_for_df = [] iv_list_for_df = [] df_woe_list = [] good_list_sum = [] good_list_each = [] bad_list_sum = [] bad_list_each = [] dist_good_list = [] dist_bad_list = [] total_dist_list = [] df_woe_concat = pd.DataFrame() i = 0 for col, each_bin_for_col in zip(col_list,list_combined): col_list_for_df, woe_list_for_df, total_dist_list, good_list_sum, good_list_each, bad_list_sum, bad_list_each, dist_good_list, dist_bad_list = calc_woe_runner(col, each_bin_for_col) col_df = pd.DataFrame(data=[col_list_for_df]*len(list_combined[0]), columns=["col"]) woe_list_for_df = pd.DataFrame(data=woe_list_for_df, columns=["WoE"]) good_list_df = pd.DataFrame(data=good_list_each, columns=["Num_good"], dtype=int) bad_list_df = pd.DataFrame(data=bad_list_each, columns=["Num_bad"], dtype=int) dist_good_df = pd.DataFrame(data=dist_good_list, columns=["Distr_good"]) dist_bad_df = pd.DataFrame(data=dist_bad_list, columns=["Distr_bad"]) total_dist_df = pd.DataFrame(data=total_dist_list, columns=["Distr_total"]) l = [] for e in np.array(list_combined[i]): l.append(str(e[0]) + "-" + str(e[1])) bin_value_df = pd.DataFrame(data=l, columns=["Attribute"]) df_woe_concat = pd.concat([col_df, bin_value_df,good_list_df, bad_list_df,dist_good_df, dist_bad_df, woe_list_for_df, total_dist_df], axis=1) df_woe_list.append(df_woe_concat) i += 1 df_woe = pd.concat(df_woe_list, axis=0)
上記のコードを実行すると、下記のようなOutputが出てくるはずです。
ステップ3の解説と実装
Step3では、実際に信用スコア(Scorecard Point)の計算をします。
計算式は、下記の通り。
Score = (β×WoE+ α/n)×Factor + Offset/n
ここで出てくる、下記の項(Terms)は、すでに計算不要です。
- WoEは、Step2で計算済み。
- Factorは、Scaling Factorなので、定数。
- Offsetは、Scaling Factorなので、定数。
- nは、SeriousDlqin2yrsの予測に使う特徴量の数なので、定数。
なので、計算するべき項は、βとαだけになります。
このβとαは、ロジスティック回帰でモデリングした後、算出されます。
つまり、今回使用しているデータセットを例にすると、
- "SeriousDlqin2yrs" をターゲット変数として、ロジスティック回帰でモデリング
- モデリング後に、Scorecard Pointで使用する変数(今回は、age, DebtRatio, Monthly Income)の係数と切片項をそれぞれ取得
- その係数が、βになる
- その切片項が、αになる
つまり、ステップ3は、ロジスティック回帰でモデリングをする、という作業のみになり、モデリング後に係数と切片をそれぞれ取得すれば良いということになります。
最後にStep3の実装方法を、下記に共有します。
# ロジスティック回帰モデルを学習させる lr = LogisticRegression() lr.fit(X_train, y_train) print("AUC:{}".format(roc_auc_score(lr.predict(X_test), y_test))) # 実際に信用スコアを算出する: Score = (β×WoE+ α/n)×Factor + Offset/n df_woe_with_score = df_woe.reset_index().copy() df_woe_with_score.iloc[:, 3:-1] = df_woe_with_score.iloc[:, 3:-1].astype(float) # Scaling factorを定義する n = len(default_features_list) alpha = lr.intercept_[0] beta_age = lr.coef_[0][0] # Ageコラムの係数 beta_dept = lr.coef_[0][1] # DebtRationの係数 beta_income = lr.coef_[0][2] # MonthlyIncomeの係数 # Scorecard Pointの合計の最大値を600にするためのスケーリング factor = 20/np.log(2) offset = 600-factor*np.log(20) print("factor:{0}, offset:{1}".format(factor, offset)) # Scorecard Pointの計算 df_woe_with_score["score"] = None score_list = [] for i in range(len(df_woe)): woe = df_woe_with_score["WoE"].iloc[i] if df_woe_with_score.iloc[i]["col"] == "age": score = (beta_age*woe+(alpha/n))*factor + (offset/n) df_woe_with_score["score"].iloc[i] = round(score, 1) elif df_woe_with_score.iloc[i]["col"] == "DebtRatio": coef = beta_dept.copy() score = (beta_dept*woe+(alpha/n))*factor + (offset/n) df_woe_with_score["score"].iloc[i] = round(score, 1) elif df_woe_with_score.iloc[i]["col"] == "MonthlyIncome": coef = beta_income.copy() score = (beta_income*woe+(alpha/n))*factor + (offset/n) df_woe_with_score["score"].iloc[i] = round(score,1)
そして、無事、信用スコア作成できました!
以上になります。読んでいただき、ありがとうございました!
質問あれば、遠慮なく、教えてください!